

環地中海世界のイスラーム地域の文明層に堆積する初期文明・ヘレニズム文明・イスラーム文明において育まれた知が、これらを経由したいわゆる<迂回した>ルートによって西欧へと受け渡されていった点は、「12世紀ルネサンス」の議論などで広く知られているが、理論(テオーリア)の領域とは異なる都市・村落生活の実践(プラクシース)領域で織り成された知の実態に関しては、把握し難い対象としてその解明が進んでいない。本研究は、ナイル河流域のエジプトの文明諸層に見られる知の連続性と断絶について、人々が都市・村落生活を営む際に対峙した「環境」と、それを乗り越えようとした実践知としての「技術」や「生存戦略」に的を絞って考察しようとするものである。

本研究では特に、初期文明の末から現代にまでわたって重要なチャンネルとして機能した中央・西デルタのダミエッタ・ラシード(ロゼッタ)両分流周辺域を主たる考察対象とし、具体的には、AreaⅠ:ブハイラ県マフムーディーヤ市~カフル・アッ= シャイフ県イドフィーナ市、AreaⅡ:ガルビーヤ県マハッラ・クブラー市とその周辺、Area Ⅲ:ブハイラ県デリンガート市とその周辺を細部検証地域として設定する(図参照)。これらの細部検証地域において、初期文明の時代からイスラーム時代、さらに現代にまで至る長い時間軸の中で、都市・村落の営まれた場がいかに変遷していったかについて、最新の考古学資料、前近代・近代の歴史資料、近現代の地図資料の諸情報を収集し、総合的に把握する。そして、都市・村落が営まれた場に移相が観察される場合には、生活を支えた「知」に断層(不連続性)が存在する可能性を想定し、以下の分析視点を導入して、その具体的様態を明らかにする。

- それぞれの地域に個性的な「環境」とは何かを把捉し、「環境」がそこに居住する人々の生の営みに与えた制限と可能性の双方について考える。
- 所与の自然環境を克服し、あるいは最大限に利用し、地域を生活文化が営まれる場へと変えていった「技術」の実態や役割、そこにおける「生存戦略」の諸相について考える。

- 長谷部史彦(慶應義塾大学)

- 岩崎えり奈 (共立女子大学)
長谷川奏(日本学術振興会カイロ研究連絡センター)
津村宏臣(同志社大学)
勝沼聡(東京大学)



















































